税務署の組織

税務調査での意見の食い違いで税務署が折れることがない理由

裁判

 

私は税務署職員として、たくさんの税務調査を経験しました。

税務調査のほとんどは税務署側の意見が正しいことが多いです。なぜなら、税務署はミスを指摘すればいいだけですので。

しかし、税務署と申告した人との間では、意見の対立はしばしば起きます。

  • 税務署は経費として認めない
  • 申告した人は経費であると出張する

税務署は折半との考え方はありません。

100万円の経費を認める・認めないで争っている場合、「じゃあ間を取って50万円は経費にしましょうか」とはなりません。

意見の対立は白黒のどちらかで決着します。

 

税務署が主張する意見には実は法律に基づいていないものがあります。

それが法令解釈通達です。

『法令解釈通達』とは、国税庁が国税局・税務署に対して事務処理手順を指示したものです。

なので、法令解釈通達は法律ではなく、国税庁が考えた取り扱い規定なのです。

国税庁ホームページ

法令解釈通達

法令解釈通達の99%は有用なもので、法律だけでは解釈できない内容を明文化し、国民が法律解釈を間違えないようにするためのものです、

ですが、残りの1%は法律の解釈で対立がり、その結果裁判等に発展することもあります。

では、どうして税務署は折れないのか。そして、税務署はなぜそこまで頑ななのか。

その理由についてご説明していきます。

 

1:法律では普段の生活で判断できない内容がほとんど

天秤

税務署が関係する法律の形態は、このようになっています。

税法(基本的な内容)

・所得税法

・相続税法など

施行令(例外規定や詳細の規定)

・所得税法施行令

・相続税法施行令など

施行規則(提出する書類関係)

・所得税法施行規則

・相続税法施行規則

これらは法律なので、従わないと法律違反になります。

例えば、確定申告の申告期限や申告書に添付する書類は、これらの法律により明記されえています。

一方で、事業の経費に該当する種類や、具体例については法律には記載されていません。

なので、具体的な例題を示しているのが、法令解釈通達なのです。

 

例えば、所得税法第36条第1項の規定で、「収入金額とすべき金額」又は「総収入金額に参入すべき金額」と記載があります。

所得税法
(収入金額)
第三十六条 その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。

 

収入金額についての具体例として、所得税法基本通達36-1では、このように記載されています。

36-1 法第36条第1項に規定する「収入金額とすべき金額」又は「総収入金額に算入すべき金額」は、その収入の基因となった行為が適法であるかどうかを問わない。

つまり、所得税の計算上の収入金額は、どんな方法で得た収入であっても収入金額に含めないとならないのです。

 

2:税務署は国税庁からの指示に従っているだけ

法律は国民全員が守らなければなりません。

もちろん、税務署職員も厳守します。

しかし、法令解釈通達は部内通達なので法的拘束力はありません。

一方で、税務署にとっての法令解釈通達は、上司(国税庁)からの命令が記載された文章です。

なので、法令解釈通達に従って処理をしないと、税務署職員は国家公務員法違反として処罰されてしまうのです。

国家公務員法
(法令及び上司の命令に従う義務並びに争議行為等の禁止)
第九十八条 職員は、その職務を遂行するについて、法令に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。
○2 職員は、政府が代表する使用者としての公衆に対して同盟罷業、怠業その他の争議行為をなし、又は政府の活動能率を低下させる怠業的行為をしてはならない。又、何人も、このような違法な行為を企て、又はその遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおつてはならない。
○3 職員で同盟罷業その他前項の規定に違反する行為をした者は、その行為の開始とともに、国に対し、法令に基いて保有する任命又は雇用上の権利をもつて、対抗することができない。

 

ですので、国民としての立場と税務署職員としての立場は少し違います。

国民

法律⇒必ず守る義務がある

法令解釈通達⇒参考にはなるが必ず義務はない

税務署

法律⇒必ず守る義務がある

法令解釈通達上司からの命令なので従う必要がある

国民は法令解釈通達に必ずしも従う必要ありませんが、税務署は法令解釈通達によって判断をしなければなりません。

もし、国民側が法律の解釈で法令解釈通達とは別の考え方が合った場合、法令解釈通達とは別の主張は可能です。

しかし、税務署で法令解釈通達が覆ることはありません。

なぜなら、税務署職員にとっては法令解釈通達通りに処理をしているからです。

 

3:見解の相違を税務署に訴えても意味が無い

法令解釈通達の解釈の違いが、争いに発展することは多いです。

また、法律自体が不備があるとして、裁判を起こすケースもあります。

特に近年は、新しくできたサービスや仕事が多く登場してますが、法律の整備は間に合っていないのが現状です。

そうなると、現場では現行存在する法律の解釈によって対応しなければなりませんが、解釈が納得できない人も当然出てきます。

 

最近の例だと、仮想通貨がありました。

仮想通貨は数年前まで存在しないもので、仮装通貨自体の計算方法や該当する税金の種類についても存在しませんでした。

そこで、国税庁は所得税法の記載されている前提条件から仮装通貨の性質を汲み取り、雑所得として国は対応しております。

しかし、仮装通貨が雑所得で正しいかどうかは、厳密には法律で規定はされていません。

なぜなら、仮想通貨の利益を雑所得と決めたのは国税庁であり、法律に明文化されたわけではないからです。

とはいうものの、仮に仮想通貨を株式譲渡所得などの別の所得として申告すれば、税務署から申告誤りとして指摘を受けます。

税務署としてみれば、国税庁が出した解釈が正義です。

そうなると、いくら税務署に対して仮想通貨が株式譲渡に該当すると主張しても、税務署や国税局では覆りません。

なので、もし覆す場合には、裁判で勝つしか方法はないのです。

 

※私個人として、仮想通貨が雑所得かそれ以外かを判断することはできません。また、国税庁が仮想通貨は雑所得として課税すると公表しているので、それ以外の方法で申告すると税務署から指摘を受ける可能性があります。

 

4:法律自体が間違えている場合には裁判で勝つしかない

勝利

もし、法律や法令解釈自体が間違っていると主張する場合には、裁判で勝つしかありません。

法律自体が間違えであると裁判所が判断すれば法律は改正されますし、法令解釈が間違っていれば、法令解釈変更もします。

最近の事例では、競馬の馬券の経費の取り扱いについて国が負けているケースがありました。

例外的な判決だったのですが、今後も裁判で国が負けることがあれば法令解釈通達を変更や法律自体の改正をする可能性はあります。

 

ですが、逆に考えると、裁判を起こさないと、法律の欠陥や法令解釈の誤りを覆すことは難しいのが現実です。

私自身、法令解釈でおかしいと思ったことはありました。ですが、税務署職員として国税庁の通達には従うしかありませんでした。

 

裁判には多額の費用と時間が掛かります。

裁判に負ければ、裁判費用分だけ支出になってしまいます。

それでも、税務署の考え方、解釈について知っていただき、役立ててください。

 

ご参考になれば幸いです!