前回までのあらすじ
超受け身体質でビビりな私は、職場に配属になっても自分から行動出来ずにオドオドしていた。
それに加えて新人の仕事である電話番が苦痛でしかたがなかった。
第3回目となる【税務署職員歴史】ですが、ナーバスな回です。
簡単に言えば人生で初めて精神崩壊して、人生が何が何だかわからなくなる原因となった時です。
私にとって税務署の花形仕事である税務調査は本当に嫌いな仕事でした。
と思われるかもしれませんが、高校生だった私は税務署を税金の計算仕事をする公務員くらいにしか考えていませんでした。
平たい話、全くの無知。
なので、当時の自分を照らし合わせると今就職活動されている人の方がよっぽど熱心だなと感心します。
(本当に)
で、どうして私が税務調査が嫌いか言いますと、他人の嫌がる姿を見たり聞いたりするのが特にかく苦手だからです。
苦手な程度としては、再現VTRでイジメられているシーンを見るのが耐えられないほど苦手です。
なので、ドラマの都合上、理不尽が必ず存在する朝ドラや恋愛ドラマは絶対に見ることは出来ません。
今となっては自分がそんな人間なんだと自覚できていますが、当時はそんな風には思っていませんでしたので、「税務調査の場数を踏めば慣れるかもしれない」と期待してた自分がいました。
なんせ、高卒を卒業して数年経過した私が公務員を辞めたところで行く当てもありませんし、やりたい仕事なんて考えてもいませんでしたので他に選択肢が無かったのです。
(地元の市役所職員になったら友人の婚姻届を受理したかった夢はありました)
そんな自分の中で既に葛藤があった状況で、初めて行った税務調査。
ですが、それが引き金となり、税務調査が出来ない体質だとわかりました。
同時に、毎日調査を考えなければいけない状況に悩み苦しみ、そして心を壊して仕事放棄をするまでに至りました。
そんな結末の経緯をお話致します。
1:税務調査は税理士関与有る無しでやりやすさが全く違う
まず、税務調査を受けるのが好きな人はいません。
税務調査は基本的に誤りを見つけるために行うので、納税者にプラスに働くことは殆どありません。
(稀に調査で減税となる誤りが判明するケースもありますが)
また、税務調査と聞くとどうしても脱税のイメージがありますが、調査対象者全員がそんな人ではないです。
確かに税務調査は申告漏れや申告誤りを是正する目的はあるのですが、調査を行ってみないと確認してみないとわからないケースも結構あったりするので、調査の中には申告内容の確認をする要素が強い調査もあります。
でも、納税者側からするとそんな税務署の意図は関係無いですよね。
突然税務署から電話が来たら私でもびっくりします。
そんな時に仲介役となってくれるのが税理士です。
納税者が税理士に税務代理の委任をした場合、税務署は基本的に税理士に連絡しなければいけません。
税理士は税務署の応対にも慣れていますし、調査を受けることに関しても場数を踏んでいます。
逆に納税者は突然税務署から連絡が来る心配もなく、税理士が税務署からの質問等をかみ砕いて説明してくれるので税務署側も納税者側もWIN-WINの関係になれるシステムです。
ただし、デメリットとしては、納税者が税理士に依頼する場合には依頼報酬が発生します。
税理士にもよりますが、申告金額するが多ければ報酬金額も増額します。
特に私が専門だった相続税に関しては相続財産が1億円を超える申告も珍しくはありませんので、報酬も何十万、何百万円が一般的な金額です。
ですので、事業をやっていない人からすると無駄な経費と考えてしまうので税理士に依頼しない人も意外といます。
そうなると結果として、税務署に慣れていない納税者と対峙しなければなりませんので、税務署側の意図が理解できずに強要されている感覚を持つ人が多いです。
それが税務署職員としては嫌だったりします。
(誰でも嫌だと思いますが…)
2:オレオレ詐欺と間違われた税務署職員
私が初めて担当者として行った税務調査は相続税でした。
ですが、その相続税の申告書は相続人自身が申告書を作成したものであり、税理士が関与していませんでした。
税理士が関与していれば
私(税務署)
⇓(税務調査をするとの連絡)
税理士
⇓(税務署からの調査あったことを連絡)
納税者(相続人)
との流れになりますが、税理士不在の場合には直接納税者に連絡することになります。
自分にとって初めての調査で税理士関与が無い。
滅茶苦茶緊張しました。
そして、意を決して電話をすると・・・
オレオレ詐欺と勘違いされました(苦笑)
私が税務署に配属された当時、オレオレ詐欺が大流行した時代でした。
ですので日本全体が自宅にかかってくる不審な電話にはとても敏感です。
実際、税務署職員を語った還付金詐欺もありましたので、(当時の)私のような20歳の若造が「税務署なんですが」と電話をしても一向に相手をしてくれませんでした。
私は大の電話嫌いであり、人が嫌がることが嫌いです。
ですので、何回も電話をしてオレオレ詐欺と何度も勘違いされるのはとても苦痛でした。
同時に「なんで俺こんな仕事をやってるんだろう」と仕事の意義もわからなくなってきます。
最終的にはなんとか税務署の人間と認識してもらったので調査をすることができたのですが、これを毎回繰り返すのかと思うとゲンナリし、仕事=苦痛と変化していきました。
3:人の見られたくないものを説得して見なければならない税務調査の苦痛
税務調査の基本は相手が悪い事をしている前提に立って調査を進めます。
表面上は真摯であったとしても、平気で嘘をついたり、後から発言を撤回する人は結構存在します。
そんな人々を調査をするためには、調査相手が隠しているものが無いか念入りに調べなければいけません。
それは同時に相手の知られたくない部分にも手を伸ばさないといけない作業となります。
自分が家族に知られたくないものがあった場合、家族でも触らない場所に保管しますよね。
ベットの下の段ボールにしまったり、タンスの下着の段に紛れ込ませたりします。
脱税する人も考え方は同じで、隠したい財産は金庫などに保管はしません。
ですので、税務署側としては隠している保管場所を突き止めるのが仕事であり、納税者としては一番嫌な部分を「見せろ」と言われるのは嫌ですので最も反感を買う作業です。
もちろん税務署の職員が勝手に漁ったりはしませんが、必要があれば自宅の隅から隅まで調べます。
当然タンスも調べますし、下着が入っている場所も例外ではありません。
(配慮はしますが)
脱税している人であれば生きた心地がしませんが、何も隠していない人からすれば、単に自分の恥ずかしい場所を見られているに過ぎません。
なので、税務調査で一番苦情に発展するのが所在確認作業となります。
税務署の人間からすると「隠し事が無ければ拒否する必要がないでしょ」とのスタンスですが、常識的に絶対嫌ですよね。
私も当時からそれが嫌でした。
何度もその場面に同席しましたが、決して慣れるものではありません。
色んな意見がありました。
おっしゃっている気持ちは理解できます。
ただ、元税務署職員としては、実際に下着が入っている場所に隠す人はいますし、「こんな所見せられないよ!」と怒鳴る人ほど申告から除外するケースを知っています。
税務調査をしているのに、相手の苦情に屈して脱税を逃したらそれこそ税務署職員の価値がありません。
なので、そのような税務調査自体も必要な行動です。
ですが、私は嫌でした。
どうして人が嫌がることをするのか
9割の人はそんな場所に隠してないのになんで怒鳴られながらも調べないといけないのか
自分はそんなことをするために税務署職員になったのか
私の中で葛藤が毎日続きました。
そしてある日の朝、私の中での葛藤に私自身が耐え切れなくなり、上司に申し出ることに。
「すいません、調査することができません」と。
4:税務調査ができない自分に職場の居場所を失い無気力になった
税務調査の快感は脱税者を捕まえることです。
私も不正を把握した時は「やった!」と思いますが、それはあくまでの机上での話。
虫のいい話ですが、私は対面や電話など直接やり取りすることで心が痛んでしまいます。
税務調査を場数を踏めば調査が楽しくなり、そして脱税者を懲らしめることができれば職員として1人前。
そんな夢をみて仕事をしていきましたが、私が直接顔を合わせる納税者は誰一人笑顔にはなりません。
そうですよね、
税務署は納税者側からすれば一方的に税金を取る側の人間ですので。
仕事の喜びもない
仕事をする相手を笑顔にできない
相手からは嫌な顔、嫌味を言われる
税務調査の仕事を毎日毎日行っていた私は耐え切れなくなり、上司に調査ができない旨を伝えました。
ですが、そんな状態になりながらも、結局そこから約10年間は税務署で働きます。
ですが、最後まで税務調査が好きになることはありませんでした。
20歳にして私は税務職員失格の烙印を自ら押しました。
同時に税務署で出世することも不可能になりました。
税務署も、表面上は「調査が出来なくても大丈夫」的な雰囲気はあります。
ですが、上層部は全員第一線で調査し続けた人達だけです。
そんな人からすると私みたいな税務調査ができない職員には価値はありませんでした。
ただ、私個人としては税務調査する側の立場を経験できたのは大きかったです。
民間企業に勤めていたら経験できるものではありませんので。
ですが、この後私は調査が出来なくなったことにより、完全に心が折れてしまい腐ってしまいます。
相談対応もしない、電話がなっても応対しない。
やる作業はアルバイトでも出来る単純作業をするだけ。
そんな腐り果てた私については次回お話したいと思います。
もしよろしければ次回もご覧ください。
ご参考になれば幸いです!