「うちには相続税を納めるほどの遺産なんてないからね」なんて言葉を両親や祖父母から聞くかもしれません。
私は税務署で相続税担当をしていましたが、相続税の申告が必要になる人は全体の1割にも満たないです。
(地域差はありますが、大まかに全体の4~8%の範囲には収まります)
相続税は基礎控除額が存在し、基礎控除以内の財産の金額であれば相続税の申告は不要となります。
もちろん相続税も発生しません。
・相続税の基礎控除額の計算式
3,000万円+法定相続人の人数×600万円=基礎控除額
例
相続人が3人(配偶者と子2人)の場合
3,000万円+3人×600万円=4,800万円⇒基礎控除額
例えば、相続人3人いれば4800万円までは相続税を支払う必要はありません。
逆に考えると相続税を支払う必要がなくても、数千万円の財産を持っている人はたくさんいるのです。
だとすれば、お金に目がくらむ人もいても不思議ではありません。
誰もが無駄な争いをしたくありません。
誰もが、「うちの家は大丈夫だ」と思っています。
ですが、現実として、財産の分配に関して納得がいなかないで裁判までもつれるケースがいくつも存在するのです。
- 相続での財産争いはどの家庭でもありえる
- 自分の家は大丈夫だと思っている家庭ほど危ない
- 争いが発生するのは自宅
- 相続税の申告と相続手続きは別
1:相続は亡くなった人の財産すべてが対象となる
『相続財産』って何をイメージしますでしょうか。
一般的には不動産や預貯金が思い当たりますが、基本的には亡くなった人の名義の財産全部が相続財産になると思ってください。
- 現金
- 預貯金
- 土地(自宅、田舎で亡くなった人の名義)
- 建物
- 貴金属(高級腕時計、宝石類)
- 株式
- 地金(金、プラチナなど)
- 仮装通貨
財産を持っていないと言う人も、自宅の所有権があればその時点で立派な相続財産を所持しています。
自宅を数十年のローン組んで買うことを考えれば、自宅がどれほど大きな価値があるかはわかりますよね。
また、意外と注意し無ければならないのが田舎の土地です。
相続は先祖から引き継がれるもの。
昔は長男が家系を継ぐとの風習がありましが、現在は変化し、民法上も兄弟(姉妹)の相続権利は同じ割合です。
ですので、亡くなった人の両親が亡くなった時に「実は田舎の土地の相続していた」なんて話はよくあります。
実際、税務署に勤務していた時に相続税の申告内容を確認すると地方の土地を申告する人が意外といましたので。
※ 死亡生命保険金(亡くなった人が自分が死亡した時に支払いが発生する保険)は相続財産ではありませんが、相続税の対象の財産とはなります
2:最も揉めるケースは遺産が自宅のみの場合
相続の争いは、確かに多額の相続財産を所有している人が亡くなった時に発生します。
しかし、それと同様に多いのが、相続財産が自宅のみのケースです。
ケース1
・相続人
妻(乙)、長男A、長女B
・相続財産
時価3000万円の自宅(妻と長男Aが居住)
預貯金200万円
※ 法律上の相続権利は妻(配偶者)が1/2、子が1/2です。
ケース1の場合
妻 ・・・相続権1/2
長男A・・・相続権1/2×1/2=1/4
次男B・・・相続権1/2×1/2=1/4
となります。
自宅は妻と長男が住んでいるので、売ることはできません。
また、次男Bは自分が住んでいない(売ることもできない)自宅を相続しても何も価値がありませんよね。
なので次男Bは現金(預貯金)で相続財産をもらえるのがベストです。
しかし、預貯金は200万円しかありませんので、600万円を亡くなった人の財産から出すのはできません。
法律(民法)上、次男Bは合計3200万円の1/4の800万円分の財産を相続する権利があります。
ですので、次男Bが主張すれば預貯金で支払えない600万円分を妻と長男Aがなんとかしないといけなくなるのです。
妻は専業主婦だったりすると、妻名義の預貯金はほとんどない場合が多いです。
そうすると600万円の現金を用意するのは困難に。
となると、次男Bは自宅を売ったお金で600万円を渡すように主張します。
妻と長男Aは自宅に住み続けたいので反対します。
そんな押し問答がやがて揉めごとになり、それが長期化すると裁判沙汰へと進展してくのです。
3:相続争いは長期化するほど周囲を巻き込んでしまう
相続人間の仲が良くても、相続争いは発生します。
亡くなった人の相続人が妻と子2人の場合には相続人3人での話し合いになりますが、相続人の妻や子は将来的に自分たちが相続する可能性のある財産でもあります。
相続する財産が10万、20万なら、相続人の妻(夫)も口を出さないかもしれません。
ですが、相続できる財産が1000万円、2000万円変わる場合はどうでしょうか。
相続する権利は兄弟であれば平等にあります。
ですので、自分の夫(妻)が相続する権利をしっかり主張すれば実質タダで1000万円を手に入れることができるのです。
しかも相続税の基礎控除以内の相続財産なら相続する財産には相続税は発生しません。
それを理解している人ほど権利を主張しますので、相続人間だけでは問題は解決しないことはあります。
そして、「死んだ父親の財産はとりあえずそのままにしようか」と先延ばしするのが最もダメなパターン。
万が一話し合いがまとまる前に相続人が亡くなった場合には、相続人の相続人と話し合う必要が出てきます。
(上記の図で、相続人Bが死亡した場合は相続人DがBの代わりになる)
そうなれば、話し合いはもっと難しくなり、お互いの権利を主張するだけで平行線をたどることになるのです。
4:自分でやりたくないなら第三者に委託した方が圧倒的に楽
どの家庭であっても、相続人間で納得して穏便に手続きが終わるのが望ましいですよね。
無事相続人が納得して相続財産の分け方が決まったら相続財産の名義変更などの手続きが必要になります。
ですが、この相続手続きが本当に面倒です。
相続手続き自体は相続人が行うことができるのですが、ほとんどの人が初めての経験。
なので、どこに何をすればいいのかすらもわかりません。
また、相続手続きは種類によって専門家は別々です。
相続手続きに関する種類別担当者
- 相続税⇒税理士
- 不動産登記の名義変更⇒司法書士
- 遺産の争い⇒弁護士
- 遺産分割協議書の作成依頼⇒行政書士、弁護士
また、相続の手続きに関しては本当に種類が多く、やることが沢山あります。
相続税の手続きの流れ
遺言書の作成(任意)
~~⇓~~死亡後
亡くなった人の相続財産の把握
⇓
相続人の確認
⇓
相続放棄の意思確認
※法律上の相続放棄は相続開始後3か月以内にする必要があり
⇓
亡くなった人の所得税の申告
※相続開始から4か月以内
⇓
遺産分割協議
※誰が・何を・どのように相続するかを話し合う
⇓
相続税の申告書提出
※10か月以内
⇓
不動産・預貯金などの名義変更手続き
その他、年金手続きや保険関係など
特に注意してほしいのが、手続きの期間に期限があるもの。
例えば、亡くなった人が多額の借金があった場合、何もしないと借金を相続することになります。
それを回避するためには、3か月以内に家庭裁判所で相続放棄の手続きを完了させる必要があります。
また、税務署の関係するのもので所得税の申告は亡くなった日の翌日から4か月以内の申告。
相続税の申告も亡くなった日の翌日から10か月以内と期限が設けられています。
ですので、亡くなってから相続人同士でゆっくりしている時間は意外と少ないです。
(相続人が遠方に住んでいる場合はなおさら大変です)
なので、わからない場合には、とりあえず専門家に相談してみるのが大事になります。
相談サポート では、電話やメールで質問することで、必要な専門家を紹介してくれるサービスとなっています。
- 手続きの方法がわからず、時間を掛けて自分で手続きする方法
- 専門家に一括依頼して最小限の出費と時間で財産を相続する方法
どちらが簡単な方法でしょうか。
また、もしも相続財産での揉め事が長期化すれば、相続財産を自由に動かすことはできません。
預貯金は基本的に凍結といって、遺産分割が完了するまでは預金の引き出しは行えません。
不動産についても、名義変更ができないので、売ることもできません。
更に、相続人で話し合いができなければ弁護士を通じて話し合いを行うことになるのですが、弁護士費用は決して安くありませんし、長期化するほど弁護士費用が発生します。
そして何より、相続人の間の関係が修復不可能な状態に。
そんな相続人の姿を、財産を残してくれた亡くなった人が見たら喜びますでしょうか。
私は税務署の窓口や税務調査で色んな相続を見てきました。
その中でも相続財産分け方で揉めて相続人間で直接話すこともできない家庭がいくつもありました。
そんな後味の悪い遺産の分割はありません。
だからこそ、面倒な手続きは速やかに完了させて、少しでも早く元の生活に戻ることが大切です。
税理士をお探しの場合には『税理士ドットコム』で全国の税理士を探すことができます。
税理士にはいろいろな人がいます。
中には、昔の知識のままで、現在の法律をあまり知らない税理士も存在します。
ですが、少なくてもネット登録する税理士は現在の環境に適している税理士です。
まずは、お住まいの都道府県から検索してみてください。
ご参考になれば幸いです!