昨年話題となった仮装通貨ですが、話題になってある程度月日が経過してもなかなか国税庁の見解が出てきませんでした。
現状仮装通貨の利益は『雑所得』として取り扱われるので、『億り人』(仮装通貨の利益で1億円以上稼いだ人)になった人々は半分税金として徴収されることになります。
(夏から秋は調査最盛期なので今頃やっているかも!?)
雑所得の取り扱いの是非については別として、税務署の職員時代にはよく納税者との意見の食い違いはありました。
税務署の職員も(一応)人間なので、主張する意見に耳を傾け、時にその意見に納得する場合もあります。が、上からの指示には逆らえません。
では、どんな風に食い違うのでしょうか?
ちょっと堅苦しい話になりますので、もしよろしければご覧ください!
1 質問には回答するけど、相談には乗らない
税務署への相談は具体的に
税務署には相談窓口があり、そこで税務相談を受けることができます。
相談内容は千差万別で、基礎的な話からレアな特例制度の適用条件まで、窓口で幅広く応対します。
特に多かった質問として、
- どうすれば税金安くなるの?
- 税金払いたくないけどどうすればいい?
- ○○では△△くらい税金戻るって言ってたよ!
確定申告期は具体的な相談はありますが、それ以外の時期は抽象的な相談が多かったです。
税務署は税金を集める組織なので、節税方法を提示することは説明できません。
(その人にとっての最適解かどうかは不明なので)
しかし、前提条件の提示を受けての判断は可能です。
一口に「税金が安くなる」といっても、実は本当に求めているのは質問した内容ではなかったりします。
例えば、「贈与税を支払わなくていい方法は?」との質問があったとしたら、税務署としては「贈与をしない(財産を貰わない)なければ贈与税を支払う必要はない」と回答するでしょう。
ですが、質問者はそれはわかってるので、贈与で財産は貰うけど、その上で贈与税を支払わなくていい方法が本当に知りたい情報です。
※ 個別相談は予約制にはなりますので事前に電話予約をして税務署に行きましょう!
税金を取り扱う行政はバラバラ
税金は税務署だけが扱っているものではありません。
国が扱う税金もあれば、
市区町村が扱う税金もあります。
例えば、土地の贈与があった場合、これだけの税金の種類と行政が絡んできます。
※ 土地の贈与を受けた場合
行為 | 対象の税金 | 管轄 | 支払うタイミング |
名義の変更 | 登録免許税 | 法務局 | 名義変更時 |
名義の取得 | 不動産取得税 | 都道府県 | 名義変更の数か月後 |
維持管理 | 固定資産税 | 市区町村 | 翌年の4月くらい |
贈与 | 贈与税 | 税務署 | 翌年の2月1日から3月15日 |
本来、相談であればこれらの税金について全て説明をしなければいけませんが、税務署の職員は税務署が管轄する税金の説明のみしか説明できません。
したがって税務署では、贈与税だけを説明する事になり、他の税金は他の管轄の行政が行うことになります。
また、税務署関係は税理士ですが、登記関係は司法書士など専門家に依頼する場合にも注意が必要です。
いわゆる、士業(税理士、弁護士、司法書士)などは資格所有者しか代理行為をすることは認められていません。なので、税理士資格の無い司法書士に依頼しても司法書士は税務代理行為をすることはできません。
2 税務署の事前相談はあくまでも『参考』
確定申告期に来署したことのある人はご存知だと思いますが、
確定申告期間中は税務署はものすごい混雑します。
(最盛期は2時間待ちとか普通です)
それを知っている方は確定申告期前に事前に相談に来署されるケースがあります。
しかし、税務署にとって事前相談(確定申告期前)はあくまでの1つのケースとしての話であり、明確な判断が必要な事項は確定的な回答はしません。
(申告期限や前提条件が揃っている特例適用条件などは回答します。)
国側としては、確定申告期間に判断するものであって、それ以外の期間はあくまでも『一つの考え』としか捉えていないからです。
一応事前照会に対する文書回答を行う方法はありますが、個人でこれを行うことは現実的ではありません。
国税庁HP「事前照会に対する文書回答手続」
http://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/sodan/kobetsu/bunsho/01.htm
昨年の仮装通貨の取り扱いも同様で、申告は確定申告期に行うものであって、それまでの期間に回答する必要はないとの認識があるからです。
(さすがに早めに指針は出しましたが)
つまり、
納税者(国民側)
⇒行為を行うタイミングで判断が欲しい!
税務署(国側)
⇒一年間の申告は確定申告期間で行うものであって、その時点までにわかればいいじゃないか!
このようなお互いの意見が食い違ってきます。
3 税務署は答えが既に存在するものしか答えない
財務省を頂点とする頂点とする組織で税務署は末端に位置します。
※組織の序列
組織 | 国 | 例 |
親会社 | 財務省 | 自動車会社 |
子会社 | 国税庁 | 工場 |
孫会社 | 国税局 | 部品メーカー |
曾孫会社 | 税務署 | ネジ工場 |
税務署の職員が財務省(キャリア組)の不祥事を国民から批判を受ける感覚は、
ネジ工場の社員が、自動車会社の株主から親会社の役員の不祥事に対する苦情を受けるのと同じ感覚です。
(税務署も国の組織なので苦情は真摯に受け止めますが、税務署職員の感覚としてはどうしてもズレを感じてしまうこともあります)
国の組織では上級機関(自分より上の組織)の命令は絶対なので、否が応でも従う必要があります。
(従わないと懲戒処分の対象となります)
組織としては低いポジションの立場である税務署では、もし新しい判断が必要になった場合には必ず上の機関の指示を仰がなくてはならず、税務署単体での回答はできないのです。
4 意見の食い違いを無くすには
結論から申し上げますと、残念ながら無理です。
税務関係の法律の取り扱いに関する裁判は毎月のように行われていますが、国側が勝訴することも敗訴することもあります。
法律が違憲だとした場合には、法改正の必要があります。
しかし、国税庁が公表している通達(下位組織に対する指示文書)が違法だと判断された場合には国税庁が通達を変更するだけで法律の変更は必要ありません。
違憲又は違法となった場合には裁判の判決に従い業務を行えばいいのですが、判決が下されるまでの期間は従来の通達が正しいとした前提で税務署は業務を遂行しなければなりません。
税務署職員でも通達の内容に疑問や不自然な点を感じることは少なくありません。
しかし、税務署は上の指示を従順ではないといけないので、規定されている事項に従い納税者に対して指導を行います。
なので、残念ながら納税者側としては、もし自身の考え取り扱いが正しいと思う場合には、不服審判所や裁判で争うしか方法はありません。
おわりに
相談事務を多く行ってきた私ですが、税務署職員として辛かったのは、納税者の言い分がほとんど正しいのに法律(通達)上、認められないことを説明をする瞬間です。
変な言い方ですが、民間企業であれば法律違反以外は顧客によって優劣をつけても何も問題はありません。
しかし、公務員は国民全員を平等に扱わなければいけないので、そのようなケースは非常に心苦しかったです。
調査についての記事を書くことがあるかもしれませんが、その際にはもう少し詳細に説明できればと思います。
ご参考になれば幸いです!