お盆や正月のタイミングで実家に帰省すると、話題になるのが『相続』です。
大学の進学で東京に上京し、そのまま就職すると、兄弟が揃う機会は滅多にありません。
ある程度の年齢になると、同世代で既に相続を経験した人や相続税を支払った人も話も聞こえてきます。
そんな人から出る言葉は、『相続税の節税対策』。
確かに実体験に基づいた話や貴重な経験談もあります。
しかし、元税務署職員の立場からすると、世間的に話題になる節税対策は一方向からしか見ていなく、無理して相続税対策すると損するケースが多いです。
では、どうして間違った情報が流れてしまうのか、元税務署職員の目線で解説します。
1:節税対策でアパート経営は危険度が高い
節税対策でアパート経営は、危険度が高いです。
理由は簡単で、日本は人口減少社会であり、都心部以外の地域の人口減少スピードは著しいです。
アパート経営の危険性は3点です。
- 常に満室はあり得ない
- アパートに住む人は今後更に減少する
- アパートには対応年数がある
⑴ 経営しているアパートが常に満室なのはあり得ない
経営しているアパートが常に満室なのはあり得ません。
アパート契約は大体が2年契約。
契約満期になっても再更新する人もいますが、転居を考える人も少なくありません。
入居者が転居した場合、同然空室になりますので、その間の部屋は無収入状態。
直ぐに空室が埋まればいいですが、現実は意外と厳しいです。
試しにSUUMOやホームズで、月に一度賃貸物件を検索をしてみてください。
月に一度、同一条件で検索すると前月と同じアパート・マンションがヒットすることがあります。
「オススメ物件!、PR物件!」
なんて名目で表示されているアパートは入居者がずっといない物件です。
入居者がいなければ、そこには一切の収入は発生しません。
つまり、収入0で維持管理費(費用)のみが発生する収支マイナスの状態です。
⑵ 少子高齢化でアパートに住む人は今後更に減少する
少子高齢化で、一人暮らしをする若者の人数は減少しています。
実家の近くで働いている人はアパートを借りて暮らしているのでしょうか。
合理的に考えて、実家に住んだ方が家賃の支出は少ないので経済的です。
高齢者の人は持ち家の人が多く、持ち家を売却しても売却資金を元手に介護施設に入居するひとは結構います。
アパートの総数は増加しているけど住む人の総数が減少すれば、必然的に空室は増加。
その結果空室部分がどんどん増え、収入が減少していく可能性が高くなっていくのです!
⑶ アパートは毎年価値が下がっていくので収入も下がる
20年間同じ賃料で経営しているアパートは、ほとんどありません。
立地条件・賃料が同じアパートで、築5年と築30年の2棟があればどちらに住みたいでしょうか。
ほとんどの人が築5年ですよね。
立地が同じで築30年のアパートを選ぶ理由があるとすれば、家賃が安い場合しか考えにくいです。
ですが、家主側からみれば、家賃の値下げ=収入減なので、本当は値下げはしたくありません。
ただ、値下げしないと入居者ゼロになってしまうので、止む無く家賃値下げをするジリ貧状態に陥ります。
アパートによっての節税対策はできますが、節税対策の前に建物の収支がマイナスになれば本末転倒です。
むやみにアパート経営するよりも、純粋に投資をした方がリスクが少ないこともあります。
2:アパート経営の相続税の減税効果には条件がある
相続税の節税対策で、アパート経営を進める理由一つに相続税評価額の減額があります。
アパート経営してた場合
元々の評価額
建物 1000万円
土地 3000万円
建物は70%評価
1,000万円×70%=700万円
土地は82%評価
※ 借地権割合を60%とした場合
3,000万円×82%=2,460万円
300万円+540万円=840万円
合計で840万円の節税効果。
が、実際にはそんなにうまくはいきません。
アパートが満室状態であれば上記の計算になりますが、相続開始時点で空室部分は減額はされません。
相続発生した時点だけ空室だったならOKですが、何か月も空室であった部屋は貸していないとみなされるので、評価額の減少はしません。
さきほど840万円の節税効果といいましたが、
アパートの半分(50%)空室だった場合には減額割合も半分の420万円になります。
更に、アパートを相続しても空室ならその部分の収入は0なので、支出だけが増えるWパンチ。
理想ではなく、現実的な経営プランを立てないと、大きなリスクを背負ってアパート経営をすることになります。
3:相続税対策で預貯金を郵便局に隠しても無意味
相続税対策で、預貯金を郵便局に隠しても無意味です。
昔、郵便局にお金を隠していれば税務署に見つからないという都市伝説がありました。
(実際も都市伝説ですが)
現在郵便局(ゆうちょ銀行)は民間の銀行と変わらないため、税務署は税務調査の一環の金融機関調査で財産を把握はできます。
また、数年後には個人番号(マイナンバー)と預貯金口座を連動させる法律が成立すると思いますので、隠す目的で郵便局や銀行に財産預けても無駄になります。
意図的に隠した場合は重加算税の対象となるため、本来納める税金にプラス最大40%の追加納付が必要になるのでオススメしません。
もし、「俺、銀行に相続財産隠してたら相続税免れたよ」なんて言っている方が周りにいたら、税務署にご一報をお願いします。
真面目な話、隠す人がいなくなれば調査不要になるので、職員を半分にして人件費を削減できます。
逆に、脱税する人が増加すれば、無尽蔵に調査職員が増えることでしょう。
そうすれば人件費も増加するので、最終的に国民が人件費(税金)を負担することになります。
そんなのバカらしいので、脱税はダメ、ゼッタイ!
4:相続税を専門にしている税理士に依頼するべし
税理士業務の中でも相続税は特に専門分野です。
税理士に依頼する場合、個人事務所の税理士であれば、相続税をメインに事業しているか確認しましょう。
相続税の税理士報酬は高額(最低10万円以上)になりますが、
- 申告書作成にかかるコスト(時間)
- 税務調査のリスク(時間と費用)
- 節税の効果(費用)
の側面から見ても税理士に依頼するメリットは大きいです。
税務署は税理士関与を推進しているため、逆に税理士関与がない相続税の調査に積極的に行います。
なお、知り合いの税理士がいない場合には、『税理士ドットコム』で検索することができます。
閉鎖的な職業なので、料金の比較が難しいのが難点でしたが、税理士ドットコムを利用すれば全国の税理士から報酬などを考慮して選ぶことが可能です。
税理士報酬は出費となりますが、税務調査のリスクと申告書の手間暇を天秤に照らして、検討してください。
5:生前中に財産整理をするのが節税につながる
生前中に財産整理をするのが、節税につながります。
利用していない土地をいつまでも保有していても、維持管理費がかかるだけです。
それなら、思い切って売却した方がお金にもなりますし、財産整理にもなります。
また、現金を不動産にした場合の方が相続税の評価額が低くなり、相続税が安くなるケースがほとんどです。
しかし、相続した後を考えると、現金から不動産に変えることが正解なのかは疑問です。
相続財産が大きな土地1つしかないしかなければ、遺産の分割について相続人間で揉める可能性は高くなります。
しかし、現金ならキレイに分割することも可能。
周りの実体験や知識を情報として得ることは大事ですが、節税情報を鵜呑みにすると後々大変なことになります。
財産を持っている本人が生前中に財産を整理して、相続人も予め財産内容を把握しておく。
難しいかもしれませんが、それをやるか・やらないかで相続処理の手間暇が変わってきますので。
ご参考になれば幸いです!